パソコンで絵を描く場合と、油絵で絵を描く場合を考えてみる

 Corel社のPainterというソフトは良く出来ていて、油絵も水彩もかなり高い水準でエミュレートできている。キャンバスに盛り上げるような塗りもしっかり処理していて、それでいて今時のPCでは随分高速に動作する。まあ有名ソフトなので、これ以上は俺が解説する程でもないでしょう。
 先日、長年趣味で油絵を嗜んでいる知人に、自作のイラストレーションを見せた。酷評喰らったのだがそれはさておき昨年末に購入した液晶ペンタブレット12WXについて自慢してみた。メッセ越しなのでGizmodoの動画レビューのURLなんぞも送った。
http://www.gizmodo.jp/2008/01/wacom_cintiq_12wx.html
 翌日、彼は21UXを買ったw 彼が買った時点で28万したという、現在のWACOMの最上位機種である。
 複雑な気持ちだったが、その時の彼の言い分が色々と面白いものだったので引用してみる。

  • 普通のタブレットの存在は知っていたが、あれで絵を描ける気はしなかった。

 描いてる先と描かれる先が違うなんて。

  • パソコンの画面に直接描けるなら話は別だが、タッチペンしか知らなかったので軽視していた。
  • こういう風(※上記GIZMODOの動画レビュー参照)に描けるなら、画材に毎月数千円投じるよりは30万弱払った方が絵描きとして汎用性がある

 Painterを買うのを忘れて泣きついてきた奴が言う台詞ではない(実話。給料日までArtrageフリー版を推したら気に入って頂けたようである)。
 ネタかと思うだろうので捕捉しとくと、こいつ「ソフトくらい詳しい奴(※例えば俺)にコピーしてもらえる」と考えてやがったのである。プログラマの端くれとして権利侵害は許しません。フリーウェアで28万の道具使うのは物悲しいけど、次の給料日にはPainterを買えという話だ。
 そもそもソフト云々よりも、パソコンに於ける絵の本質は「入力インターフェイスがどういう品物か」にかかっているようだ。

 それ以外にも彼からは、「undo? へーワープロみたい。でも絵は取り消すものじゃなくない? 白を上塗りするよ」とか「拡大縮小って模擬的なものでしょ? 俺はワコム※をそのまま紙だと思ってみるよ」という興味深い発言を頂いた。疑問を呈したいものの、ある意味では納得せざるを得ない。少なくとも彼に取っての本質は「筆を模した物」で「紙を模した物」に「本来と変わらぬ感覚で描けること」なんだろう。
 これはとても微妙な水準だ。
 アナログ画材同様に振る舞う範囲で使われたソフトウェアは、安く見ると「デジタル故の利点を無視した使い方」である
「本物を模した消しゴム」機能は許されても、「きっちり範囲が消える消しゴム」の存在は無視される。
 多くのデジタル絵描きが多用している「アンドゥ」さえ、リアル志向時にはありえない機能となる。
 でも、保存機能はデジタルの良さをそのまま持ち込める。コピーできて、バックアップが取れて、保存環境も気にしなくていい「データ」を生成できる。望むならblogにそのままアップロードできる形式で書き出せる。
「デジタルの利点」に捕われ過ぎる事は、もしかしたらアーティストの創発を阻害する事なのかもしれない。
 ミスで潰れた領域は塗り直す作業に等しくて、その作業が新たな趣向や指針を生成するプロセスとなり。
 削られた消しゴム程度にしかキャンバスをクリアにできない設定の「筆」こそが、画材としての消しゴムを生かす道具であり。
 ——この辺、実のところPainterのプリセットを眺めてさえ「そういう意図」を感じる事ができるものが多々ある。しまったなぁ、俺、不便なプリセットは徹底的に無視して過ごしてたよ。。
 話を戻す。カメラマンが正確な写像を計算して得たフォトグラフィしか、「作品の近似情報」としてblogにアップするに足る権利を得ないのが本来の油絵かもしれない。ここにはデジタルの利点がエグいほどに生のまま通る。作品データそのものであれ、ネットに流通させることが可能なのだ。
 この「複製が自由過ぎる」という点、コンテンツホルダーにはいつまでも頭痛の種となろう。暗号化や複製除去機能の次元じゃなく、永劫的に「一方でオープンなものがある」という利用者/鑑賞者側の価値観を楔として叩き付けられ続けているからだ。
 クローズドなものを完璧に保護する手法、というのが(たとえ原理的に夢物語であろうとも)待ち望まれる。
 それは「もし実現すれば」社会的な「本音としての」問題を一掃するものに違いないからだ。
 妥協点はどこにある。きっと現状では、個々人でばらばらな妥協点を意識するに過ぎないので、もっと確立的な暴力論者が必要なんだろう。「だろう」っていうか、Googleという「ある意味での暴力」によって潰れた細かい検索サービスやらを尻目に、僕らはGoogleの恩恵や功績を褒め讃えているんだ。
 ……あ、これ書いていくといくら行数あっても足りねえ。Googleの暴力性については今後の機会に回す。ていうかぐぐれ(おい

 余談ながら、このアホに「なんで12WXじゃなく21UXにしたのか」をメッセで聞いたら、
「あんなルーズリーフ横にしたようなサイズ※じゃ、メモしか書けないよ」
 と返って来た。
 ……ルーズリーフよりは少しは大きいよ……慣れたら拡大縮小駆使してソツなく描ける(はずな)んだよ……それでも俺には天国なんだよ
 ……語るに落ちるな。今日は泣こう。
(※正直、確かに狭い。)